長崎地方裁判所 平成7年(行ウ)4号 判決 1997年9月30日
原告
西部地区の環境と文化財を守る会 (X)
右代表者会長
諫見富士郎
被告
長崎県知事 高田勇(Y)
右訴訟代理人弁護士
塩飽志郎
右指定代理人
定松秀人
同
村瀬弘幸
同
松尾太一
同
北島孝志
同
酒井定孝
同
岩永孝幸
同
中島一秀
同
増永驍
同
吉田健吾
同
町田和正
同
堀口尚聡
同
梅崎脩次
同
百岳敏晴
同
市瀬良一
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一 原告の請求
一 被告が原告に対して平成六年一〇月三一日付けでした公文書一部開示決定処分のうち、土地利用計画平面図及び実測図に基づく公共施設新旧対照図に係る非開示部分を取り消す。
二 被告が原告に対して平成六年一一月一日付けでした公文書一部開示決定処分のうち、土地利用計画平面図に係る非開示部分を取り消す。
三 被告が原告に対して平成七年二月九日付けでした公文書一部開示決定処分のうち、土地利用計画平面図に係る非開示部分を取り消す。
第二 事案の概要
本件は、原告が長崎県情報公開条例(平成四年長崎県条例第一号 以下、単に「条例」という。)に基づき、同県諫早市西部地域に開発が計画されたゴルフ場(仮称ウエストヒルズカントリークラブ。以下「本件ゴルフ場」といい、その開発計画を以下「本件開発計画」という。)に関する公文書の開示請求を三回にわたって行ったが、被告は、いずれもその一部のみを開示し、その他については非開示とする旨の決定をしたので、原告が非開示とされた部分のうちの一部である土地利用計画平面図(以下「本件平面図」という。)及び実測図に基づく公共施設新旧対照図(以下「本件対照図」といい、本件平面図と併せて「本件図面」という。)について右各決定の取消しを求めた抗告訴訟である。
第三 争いのない事実等
一 当事者
原告は、長崎県内に事務所を有する市民団体であり、被告は、長崎県知事として、条例二条一項の「実施機関」である(争いがない)。
二 公文書一部開示決定処分の存在と不服申立ての経由
1 都市計画法三二条に係る協議関係書類の開示請求
(一) 原告は、平成六年一〇月一四日、被告に対し、条例五条に基づき、本件開発計画に伴う里道・水路の用途廃止についての同年九月一六日付けの都市計画法三二条に係る同意(協議)の関係書類一切の開示を請求した。
(二) 被告は、これに対し、本件図面等を非開示として一部開示の決定を行い(以下、この決定を「処分1」という。)、同年一〇月三一日付け公文書一部開示決定通知書をもってその旨原告に通知した。この通知書に付記された本件図面等の非開示理由は、「これらの文書又は、図面を開示すると法人等の正当な利益を害するおそれがあり、長崎県情報公開条例第九条第三号本文に該当し、同号ただし書に該当しない。」というものである。
(三) 原告は、処分1のうち、別紙1に掲げる文書の非開示を不服として、同年一一月二九日、被告に対し、行政不服審査法六条に基づき異議申立てをした。
(四) 被告は、同年一二月一九日、この問題を長崎県情報公開審査会(以下「審査会」という。)に諮問し、その答申を得て、平成七年一〇月二日、処分1の非開示部分につき一部を取り消したが、本件図面を含むその余の部分については異議申立てを棄却し、同日付け決定書謄本を原告に送達した。
2 長崎県土地利用対策要綱八条一項に係る開発行為事前指導申出書等の開示請求
(一) 原告は、平成六年一〇月一七日、被告に対し、条例五条に基づき、本件ゴルフ場に関する長崎県土地利用対策要綱八条一項に係る開発行為事前指導申出書及び添付図書一切の開示を請求した。
(二) 被告は、これに対し、本件平面図等を非開示として一部開示決定を行い(以下、この決定を「処分2」という。)、同年一一月一日付け公文書一部開示決定通知書をもってその旨原告に通知した。この通知書に付記された本件平面図等の非開示理由は、「これらの文書には事業者の内部管理に属する情報又は事業活動に直接かかわる情報が記録されており、開示することにより、当該事業者の事業運営上の地位その他正当な利益を害すると認められ、長崎県情報公開条例第九条第三号本文に該当し、同号ただし書に該当しない。」というものである。
(三) 原告は、処分2のうち、別紙2に掲げる文書の非開示を不服として、同年一一月二九日、被告に対し、行政不服審査法六条に基づき異議申立てをした。
(四) 被告は、同年一二月二〇日、この問題を審査会に諮問し、その答申を得て、平成七年一〇月二日、処分2の非開示部分につきその一部を取り消したが、本件平面図を含むその余の部分については異議申立てを棄却し、同日付け決定書謄本を原告に送達した。
3 森林法一〇条の二第一項に係る林地開発許可申請書等の開示請求
(一) 原告は、平成七年一月二六日、被告に対し、条例五条に基づき、本件ゴルフ場に関する同年一月二四日付けの森林法一〇条の二第一項に係る林地開発許可申請書及び添付書類一切の開示を請求した。
(二) 被告は、これに対し、本件平面図等を非開示として一部開示決定を行い(以下、この決定を「処分3」という。)、同年二月九日付け公文書一部開示決定通知書をもってその旨原告に通知した。この通知書に付記された本件平面図等の非開示理由は、「これらの文書又は図面を開示すると法人等の正当な利益を害するおそれがあり、条例第九条第三号に該当する、」というものである。
(三) 原告は、処分3のうち、本件平面図の非開示を不服として、同月二二日、被告に対し、行政不服審査法六条に基づき異議申立てをした。
(四) 被告は、同月二三日、この問題を審査会に諮問し、その答申を得て、同年九月一八日、異議申立てを棄却し、同日付け決定書謄本を原告に送達した。
(各公文書一部開示決定通知書に付記された非開示の理由について、甲二、六、一〇、その他の事実は争いがない)
三 本件図面の性質、内容等
本件図面はいずれも、本件開発計画を進める事業者である長崎県央開発株式会社(以下「本件事業者」という。)が、本件開発計画を進める過程で被告に提出し、決裁等の手続が終了し、被告が管理しているものであって、条例二条二項の「公文書」に該当するものである。また、本件図面はいずれも、本件事業者がコンサルタント会社に委託して、約一年間かけて作成したものであり、本件図面を含む開発許可申請に必要な書類の作成及びゴルフコースの設計等に数億円の費用がかけられた。そして、本件平面図は、航空写真や現地調査などにより一〇〇〇分の一の縮尺で作成した原図を二五〇〇分の一に縮小した地図にコース、クラブハウス、管理用道路等本件ゴルフ場の諸施設の形状、配置を記載したもので、一メートル毎に等高線が表示されている。また、本件対照図は、航空写真を基に、字図上の里道・水路とを対比しながら、さらに現地を調査し、土地の古老の話を聞いたりして作成した図面であり、廃止・新設される里道・水路のほかコースやクラブハウス等本件ゴルフ場の諸施設の形状、配置も記載されている。これら本件図面に記録されている情報は、条例九条三号本文にいう「法人に関する情報」に該当するものである(〔証拠略〕)。
四 本件平面図に類似する図面の公表・公開
現在、既に市報いさはや平成三年一一月号の別冊として本件平面図の概略図ともいうべき西部地域開発計画概要図(以下「開発計画概要図」という。)が公表済みであり(争いがない。)、同図面には本件ゴルフ場のコースの形状、配置が記載されている(〔証拠略〕)。また、本件事業者は、本件ゴルフ場について環境影響評価(以下「本件環境影響評価」という。)を実施しているが、原告の請求に応じて本件環境影響評価に係る環境影響評価書(案)の中のゴルフ場ゾーン土地利用図(以下「ゴルフ場ゾーン土地利用図」という。)が公開されており(争いがない。)、同図面には、コース、クラブハウス、管理用道路等本件ゴルフ場の諸施設の形状、配置が記載されている(〔証拠略〕)。しかし、開発計画概要図は縮尺一万二五〇〇分の一であるのに対し、ゴルフ場ゾーン土地利用図は縮尺六〇〇〇分の一であって、等高線も二メートル間隔でしか記載されていない(〔証拠略〕)。
五 本件開発計画の予定地及びその周辺の様子等
本件開発計画が進められている土地は、長崎県諫早市真崎・破籠井両地区及び同県大村市の一部にわたる場所に位置し、総面積は一〇八・五ヘクタールであって、そのうち、山林が七二・三三パーセント、原野が一六・二〇パーセントをそれぞれ占めている(〔証拠略〕)(以下、この土地を「本件開発計画予定地」という。)。
また、本件開発計画予定地には隣接して一七六〇戸、計画人口五五二〇人の住宅が建設される予定であり、近くには字校もある。また、本件開発計画予定地のすぐ下を真崎川が流れており、ふるさとの川としてその中で子どもたちが遊べるように改修される計画がある。さらに、本件開発計画予定地から二〇〇メートル以内の距離のところに大量の地下水を使用している工場がある(争いがない)。
六 本件開発計画に対する原告の反対活動等
原告は、子供たちと本件開発計画予定地付近の自然観察等を行うほか、本件開発計画に反対する立場から様々な活動を行ってきた(〔証拠略〕)。
その一環として、原告の会員らは、平成四年三月以降、当初本件開発計画の予定区域に含まれていた、長崎県諫早市大字真崎本村名字江副三九番山林一万五七七五平方メートルの土地「以下「本件土地1」という。)、同県大村市今村町一〇四八番一山林四五六平方メートルの土地(以下「本件土地2」という。)、同県諫早市大字真崎破籠井名字野林七九二番山林九五一〇平方メートルの土地(以下「本件土地3」という。)並びに同市大字真崎破籠井名字一ノ角八五五番原野六九四平方メートル、同八五六番イ田一〇〇四平方メートル、同八五六番ロ田五二平方メートル及び同八五七番山林四七六〇平方メートルの各土地によって構成される合計面積六五一〇平方メートルの土地に、それぞれ立木の明認方法いわゆる立木トラストを行った。また、原告代表者は、ほか一九名とともに、当初本件開発計画の予定区域に含まれていた同市大字真崎破籠井名字瀬崎八一三番田二一四平方メートルの土地(以下「本件土地4」という。)に賃借権設定の仮登記をしたほか、ほか二九名とともに前記の同市真崎破籠井名字一ノ角八五六番ロ田五二平方メートルの土地にも賃借権設定の仮登記をし、さらに、ほか九名とともに、同市大字真崎本村名字江副頭又一二番原野一九平方メートルの土地の所有権を取得し、その旨登記した(〔証拠略〕)。
その結果、本件事業者は、当初の本件開発計画の予定区域中、その周辺部に位置していた本件土地1ないし4については、同区域から完全に除外し、同区域中、中心部に位置していたためレイアウト上は同区域から完全には除外できない前記の同市大字真崎破籠井名字一ノ角八五五番原野六九四平方メートル、同八五六番イ田一〇〇四平方メートル、同八五六番ロ田五二平方メートル及び同八五七番山林四七六〇平方メートルの各土地によって構成される合計面積六五一〇平方メートルの土地(以下「本件飛び地1」という。)並びに前記の同市大字真崎本村名字江副頭又一二番原野一九平方メートルの土地(以下「本件飛び地2」という。)については、飛び地としたほか、それに伴いコース設計も変更した(〔証拠略〕)。
なお、本件飛び地1の一部の土地の地権者である早田篤も、本件開発計画に反対している(〔証拠略〕)。
また、本件飛び地2は、森の中に位置し、本件開発計画前には利用されていなかった土地であり、そこに通じる里道はあるものの、当時、夏場には、高さ一メートルほどの雑草が生え、近づくのが困難な状況にあった(〔証拠略〕)。
七 本件開発計画予定地内の里道の廃止及び代替通路の新設計画
本件事業者は、本件飛び地1、2に至る現存の里道についていずれも廃止を申請し、代わりに別の通路を新設する計画を立てている。現存する右里道は、本件飛び地1に至る通路が幅約一メートル、本件飛び地2に至る通路が幅約一・五メートルでいずれも自動車の通行は困難であるが、本件飛び地1に至る通路として本許事業者が新設を予定している道は、幅約三メートル、延長約七〇〇メートルで、片側に危険防止のため高さ約一・八メートルの金網フェンスが設けられ、自動車の通行が可能になる。また、本件飛び地2に至る通路として本件事業者が新設を予定している道は、幅約一・五メートル、延長約一七〇メートルで、両側に危険防止のため高さ約一・八メートルの金網フェンスが設けられる(〔証拠略〕)。
なお、里道・水路等の行政財産の用途廃止に係る実務においては、原則として隣接する地権者の同意を得ることとされている(〔証拠略〕)。
八 本件開発計画予定地内の未買収地の存在
本件開発計画は、本件図面に記載されたようなコースや諸施設のレイアウトで本件ゴルフ場を設計することを前提に平成八年八月二一日に都市計画法上の開発許可がなされており、その段階で既に本件開発計画予定地内のすべての地権者から開発同意が得られている。しかし、土地の買収については、これまでに約三〇億円の買収費がかけられているのの、本件開発計画予定地内すべての土地を買収するまでには至っておらず、少なくとも、山口悟が所有する長崎県諫早市大字真崎破籠井名字水守八三三番の山林四二七一平方メートルほか二筆の合計一万〇五〇五平方メートル、山口要藏が所有する同市大字真崎破籠井名字大谷八八九番一の山林四六六七平方メートルほか一五筆の合計二万一〇三一平方メートル、東栄観光株式会社が所有する同市大字真崎本村名字江副頭三番五一の山林一二一三平方メートルほか一〇筆の合計一万二一三二平方メートル、芦塚百合子が所有する同市大字真崎本村名字大平二七六番ツの山林一二三九平方メートルほか一筆の合計二四五二平方メートル、山口チヅ子ほか四名が共有する同市大字真崎本村名字井手ノ平二二一番チの山林一二三九平方メートルほか五筆の合計四六三一平方メートル、宮崎清が所有する字高尾八四八番一の一のほか二筆の合計一万七二三二平方メートル、浦清志が所有する同市大字真崎破籠井名字一ノ角八六六番五二五八平方メートル、広栄開発が所有する字打越九〇〇番ほか一筆の合計三九二三平方メートル、清水啓良が所有する同市大字真崎本村名字江副頭三番三五ほか一筆の合計三六三九平方メートル、森強が所有する同市大字真崎本村名字大平二七六番マの一二三九平方メートル、野口好美が所有する同市大字真崎本村名字大平二七六番ワ一二三九平方メートルの各土地(各土地の面積の合計は八万三二八一平方メートルであり、本件開発計画予定地の約七・七パーセントを占める。以下、これらの土地を「本件未買収地」という。)については、今後買収交渉が進められる予定になっている(〔証拠略〕)。
第四 争点
本件訴訟の争点は、<1>本件図面の条例九条三号本文の該当性<2>本件図面の条例九条三号ただし書各号の該当性<3>本件図面の条例九条五号の該当性である。
第五 争点に関する当事者の主張
一 本件図面の条例九条三号本文の該当性
(被告)
本件図面は、本件事業者が巨額の費用をかけて企画し、設計した本件開発計画の図面であって、本来、高度の企業秘密性を有するものである。
まず、本件平面図については、既に公表、公開済みの類似図面に比べてより精密なものであり、本件開発計画予定地が起伏のある山に位置し、その現況が容易に中に分け入っていくことのできない自然林であり、現地の特定地点と公表、公開済みの類似図面との対応関係を正確に把握することが困難な本件においては、本件平面図を開示することにより現地における場所の特定が格段に容易になる。また、本件事業者による里道・水路の廃止は、廃止される里道・水路の隣地権者の一人でも反対すればこれをすることができないところ、本件対照図には、コース予定地も図示されており、どの廃止予定の里道・水路がコース予定地上に存するかも一目瞭然であり、これを開示すれば、現地における実際の里道・水路とを対比させることによって、里道・水路の折れ曲がっているところや交差しているところなどの特徴的な場所を手がかりに里道・水路の隣接地の土地を特定することが可能となる。このような本件図面を本件開発計画を意図的に妨害しようとする者が利用すれば、本件ゴルフ場の重要なポイントとなる箇所を特定し、かかる土地を取得するなどしてこれを効果的かつ容易に妨害することが可能となる。
現に原告は、本件事業者が本件開発計画に着手した後、その当初の本件開発計画の予定区域内において土地を譲り受けあるいは賃借し、そこにわずかな作物を植えたり、立木を所有して明認方法を施すなどして、本件開発計画阻止のための活動(以下、これらの活動を「トラスト等」という。)をしてきたところであり、その結果、本件事業者は当初計画していたコースの縮小・分断・移動を余儀なくされた。これによって、本件事業者は、土量計算のやり直しなど設計変更に時間と費用を要したのみならず、コース距離の短縮、コース間移動の不便に伴うゴルフ場としてのグレードの低下をも甘受させられることとなった。そして、計画変更後の本件開発計画予定地内の土地についても、本件事業者はいまだ地権者から開発同意しか得ておらず、これから買収交渉に入る土地や借地契約しか締結していない土地など権利関係が不安定な土地が面積比で全体の約一三パーセントあることからすれば、本件図面を原告に開示することにより、原告などの本件開発計画に反対する者が本件ゴルフ場の諸施設と関連させて更にトラスト等を行うおそれがあり、本件開発計画が妨害される。
よって、本件図面は、これを開示することにより、事業者の競争上または事業運営上の地位その他正当な利益を害するものであり、条例九条三号本文に該当する。
(原告)
1 まず、条例七条四項は、非開示決定に際し、理由を付記すべきことを定めているところ、被告は、処分1ないし3の各処分(以下、「本件各処分」という。)の段階では、本件図面を非開示とした理由として本件図面が「内部管理に属する情報又は事業活動に直接かかわる情報」であることをあげるのみで、トラスト等については触れておらず、各異議申立棄却決定の段階においても、本件図面が「技術上のノウハウに属する情報」であるなどとするだけで、トラスト等については触れていなかったのであるから、非開示理由の有無について実施機関の判断の慎重と公正かつ妥当を担保してその恣意を抑制するとともに、非開示理由を開示請求者に知らせることによって、その不服申立てに便宜を与えるという理由付記制度の趣旨に照らし、本件訴訟において新たにトラスト等による妨害のおそれを非開示の理由として主張することは許されない。
そして、「内部管理に属する情報又は事業活動に直接関わる情報」あるいは「技術上のノウハウに属する情報」との関係でいえば、ゴルファーがどのゴルフ場に足を運ぶかは、料金で決まる面が大きく、その他ゴルフ場までの距離、芝の状態、風当たり、ボールの出し易さ(雑木か植林か)、グリーンの状態等の要因が関連するのであり、本件図面を開示することにより明らかになるようなゴルフ場のコースの特殊性、ユニーク性がゴルフ場の経営に及ぼす影響はそれほど大きくはない。また、コースの配置、形状等は、地形や地質等に影響を受けるものであり、本件ゴルフ場のコースの特殊性、ユニーク性も本件ゴルフ場の地形や地質に関連するものであって、同業他社がまねる余地は少ない。このように、本件ゴルフ場のオープンまでの間に同業他社が本件図面を調べる必要性は乏しいのであり、本件図面は、これを開示することにより、本件事業者の競争上または事業運営上の地位その他正当な利益を害するものではなく、条例九条三号本文に該当しない。
2 また、本件図面のうち本件平面図については、既にこれと類似の図面である開発計画概要図やゴルフ場ゾーン土地利用図が公表、公開されており、本件対照図については法務局の字図によっても同様の情報を知り得るのであって、既に公表、公開済みのこれらの図面や諫早市土木部で販売されている縮尺二五〇〇分の一の地図を組み合わせるなどして本件開発計画予定地内の場所の特定は可能であり、本件図面を開示することによって新たにトラスト等が可能になるものではないし、トラスト等が本件開発計画に与える影響は、本件開発計画予定地の中央に近いほど大きいのであって、トラスト等のために図面と現地との厳密な照合はそもそも必要でない。
しかも、トラスト等を行うことができるかどうかは、原告と同じように自然と史跡を後世に残したいとの思いを持ち、原告に協力する地権者がいるかどうかにすべてかかっているところ、本件開発計画予定地内の土地は、既に本件事業者により買収または開発同意がなされているのであり、開発同意はしつつも、いまだ本件事業者の買収に応じず、借地契約を締結するにとどまっている地権者らも、本件開発計画に反対しないとの意思は明確であり、これらの地権者らが原告によるトラスト等の働きかけに応じる余地はない。特に、本件未買収地の一部を所有する山口悟は、破籠井町町内会長で、本件事業者の取締役を務めるとともに、本件開発計画に関連して行われた町内の道路拡幅工事を請け負った富陽建設の社長を務めており、また、同じく本件未買収地の一部を所有する山口要藏も、破籠井地区地権者組合長として、本件開発計画を積極的に支持してきたものであり、これらの者が原告からのトラスト等の働きかけに応じることは考えられない。実際、原告は、買取に応じていないこれらの地権者らにトラスト等の働きかけをしていない。したがって、本件図面を開示することにより原告が新たにトラスト等を行う余地はない。
よって、やはり、本件図面は、これを開示することにより、事業者の競争上または事業運営上の地位その他正当な利益を害するものではなく、条例九条三号本文に該当せず、これに該当するとして本件図面を非開示とした本件各処分はいずれも違法である。
二 本件図面の条例九条三号ただし書各号の該当性
(原告)
1 条例九条三号ただし書イ及びハについて
本件開発計画予定地には隣接して一七六〇戸、計画人口五五二〇人の住宅が建設される予定であり、近くには学校もあるため、本件ゴルフ場に散布される農薬が子どもたちに与える影響は大きい。また、本件開発計画予定地のすぐ下を流れる真崎川はその中で子どもたちが遊べるように改修される計画が進められているところ、雨とともに流出した農薬や肥料が川を汚染することは避けられない。さらに、本件開発計画予定地から二〇〇メートル以内のところに一日三〇〇トンの地下水を使う工場があり、この地下水が汚染される可能性もある。
これらの事情からすれば、本件図面は、条例九条三号ただし書のうち、イの「事業活動によって生じ、又は生ずるおそれがある危害から人の生命、身体又は健康を保護するために、開示することが必要であると認められる情報」またはハの「イ又はロに掲げる情報に準ずる情報であって、開示することが公益上必要であると認められるもの」に該当する。
なお、本件開発計画に関しては、既に本件環境影響評価が実施されているが、かかる環境影響評価等、他の制度をも考慮に入れて、「人の生命、身体又は財産を保護するために、開示すること」の必要性を判断すべきではない。特に、本件環境影響評価の結果である環境影響評価書(案)は、本件各処分がされた後の平成七年一〇月一五日から縦覧に供されたのであり、本件各処分の適法性を判断する上で、本件各処分後に生じた事情を考慮すべきではない。また、そもそも我が国の環境影響評価は、本件環境影響評価も含め、事業計画の初期段階での実施の要請に反し、事業計画が進んだ許認可の直前に実施されることが多く、事業計画について十分な分析ができないのが通例であり、環境影響評価の実施前はもちろん、その実施後であっても、原告等の利害関係人が、環境影響評価の制度とは別に、本件図面等の開示を求める必要性がある。
2 条例九条三号ただし書ロについて
原告は、現存する里道を通って本件飛び地1に所在する立木の維持管理や借地の手入れを行い、子どもたちと自然観察を行っているし、本件飛び地1の一部の地権者である早田篤らは本件開発計画予定地周辺の土地と併せて、自然と共生する福祉施設を造ることを計画している。かかる状況の中で、本件開発計画によって、本件ゴルフ場内に個人の土地である本件飛び地1を取り囲み、そこに至る里道を廃止することは、原告らの財産権、人格権を侵害するものである。廃止する里道に代えて新たに別の通路を取り付けるというものの、それは金網フェンスの中を通行させるという屈辱を強いるものである上、地元の人たちや一般通行人が本件開発計画予定地内に残された貴重な自然と親しむ機会を遠ざけるものであって、社会通念上著しく妥当性を欠く。したがって、本件図面は、条例九条三号ただし書ロの「違法若しくは不当な事業活動によって生じ、又は生ずるおそれがある支障から人の生活を保護するために、開示することが必要であると認められる情報」に該当する。
(被告)
1 条例九条三号ただし書イ及びハについて
本件開発計画は、それ自体として人の生命、身体又は健康を害するものではなく、本件図面の開示請求は、条例九条三号ただし書イのうち、「事業活動によって生じ、又は生ずるおそれがある危害から人の生命、身体又は健康を保護するため……必要」の要件を欠く。仮に本件開発計画が人の生命、身体又は健康を害するおそれがあるとしても、既に本件開発計画に関しては本件環境影響評価がなされ、その環境評価書(案)が公開されており、その中に本件図面に類似する図面が存在しているとともに、右環境影響評価書(案)に対し、原告の会員から意見書が提出され、その意見書をも踏まえて、長崎県が同環境影響評価書(案)どおり実施するよう本件事業者に通知した本件においては、原告の懸念する点については、十分吟味済みなのであるから、事業者の企業秘密を犠牲にしてあえて本件図面を開示しなければならない必要性はない。したがって、本件図面は、条例九条三号ただし書イの「……必要であると認められる」の要件を欠く。また、同様の理由で同号ハの「……必要であると認められる」の要件も欠く。
2 条例九条三号ただし書ロについて
本件開発計画により本件ゴルフ場で取り囲まれることになる本件各飛び地のうち、本件飛び地2は本件開発計画の発表前には利用されていなかった土地であり、実際にはあるかないか分からないような里道を通らなければ行けなかった土地であったのに、本件開発計画の発表後、急きょ開発に反対する者により取得された土地である。また、本件飛び地1は本件開発計画によって、そこへ至る道の幅が広げられ、自動車の通行も可能になるように現状よりも整備されることになる。したがって、本件開発計画は、原告らの財産権、人格権を侵害することはなく、本件図面は、条例九条三号ただし書ロの「違法若しくは不当な事業活動によって生じ、又は生ずるおそれがある支障から人の生活を保護するために、開示することが必要であると認められる情報」に該当しない。
三 条例九条五号の該当性
(被告)
長崎県では、土地の利用について、土地に関係する各法令に基づき指導を実施するとともに、長崎県土地利用対策要綱に基づいて総合的な調整を実施しており、同要綱では、一条において「開発行為の適正な誘導」を図ることによって「無秩序な土地開発を防止するとともに、良好な地域環境を確保し、もって公共の福祉に寄与することを目的とする。」と規定し、その実現のために二条で「県は……県民の協力のもとに、……土地利用対策を推進する。」と規定し、民間事業者の協力を前提として事務を執行することとしている。本件事業者の利益に反することが明確であるにも拘らず、これを無視して本件図面を開示すれば、事業者の協力が得られなくなる事態を招くおそれがあり、県の「当該事務事業に関する関係者との信頼関係若しくは協力関係が著しく損なわれ、その円滑な執行に著しい支障を生ずるおそれがある」ものといえ、条例九条五号に該当する。
(原告)
条例七条四項は、非開示決定に際し、理由を付記することを定めているところ、被告は、本件各処分の段階でも、各異議申立棄却決定の段階でも、条例九条五号を決定の理由としていなかったのであり、非開示理由の有無について実施機関の判断の慎重と公正かつ妥当を担保してその恣意を抑制するとともに、非開示理由を開示請求者に知らせることによって、その不服申立てに便宜を与えるという理由付記制度の趣旨に照らし、本件訴訟において新たにこれを理由として主張することは許されない。
第六 争点についての判断
一 条例九条三号本文の該当性
1 本件図面が条例九条三号本文に該当することの理由として、被告はもっぱら原告らがトラスト等に本件図面を利用することによる支障を主張するのか、この点に加え同業他社にコースレイアウト等のノウハウを知られることによる支障をも主張するものであるのかは必ずしも明らかではない。しかし、仮に後者の点についても主張するものであるとしても、コースレイアウト等の情報は本件ゴルフ場がオープンすれば必然的に明らかになるものである上、コース、クラブハウス、管理用道路等本件ゴルフ場の諸施設の形状、配置に関する情報等本件図面に記載された情報と類似の情報が記載された開発計画概要図及びゴルフ場ゾーン土地利用図が既に公表、公開されていることからすれば、同業他社はそれらによってコースレイアウト等の必要な情報を知り得るのであり、本件図面を開示することにより事業者の競争上の地位が特段害されるとまでは認められない。したがって、この点については条例九条三号本文該当性の理由とならない。
2 次に、被告の主張する、原告らがトラスト等に本件図面を利用することによる支障について検討する。
まず、前記認定のとおり、本件開発計画においては、現段階で、本件図面に記載されたようなコースや諸施設のレイアウトで設計がなされ、本件事業者は、それを前提とした都市計画法上の開発許可も得ている。また、本件事業者は、その許可を得る上で提出することが必要な書面、図面等を作成するために数億円を支出しており、土地の買収についても約三〇億円を費やしている。このような状況の下で、本件開発計画に反対の立場から本件ゴルフ場のコースその他の施設予定地上の土地を取得したり、賃借されたりなどされれば、本件開発計画は、コースや諸施設のレイアウトの設計をはじめ、新たな変更を余儀なくされるほか、場合によってはその事業継続自体にも影響を受けるなど、本件事業者に大きな損害を与えかねないことが認められる。また、里道・水路等の行政財産の用途廃止のためには原則として隣接する地権者の同意を得ることを求める行政実務の運用の下では、本件開発計画に反対する立場から里道・水路に隣接する土地を取得されたり、賃借されるなどしても、同様に、本件事業者に大きな損害を与えかねないことが認められる。現に、これまでに原告は、本件開発計画に反対の立場からトラスト等を行い、その結果、本件事業者はトラスト等が行われた土地については、当初の本件開発計画の予定区域から完全に除外したり、飛び地にするなどして除外したほか、コース設計の変更を余儀なくされている。
しかるに、本件開発計画予定地内には、前記認定のとおり、本件未買収地が残されており、原告やその会員らがトラスト等の働きかけを行い、本件未買収地の地権者がその働きかけに応じる可能性は依然として残されているものといわねばならない。この点、原告は、地権者らが原告によるトラスト等の働きかけに応じる余地はない旨主張するか、仮に、原告の指摘する山口悟や山口要藏らが、その他位や従前の態度などから、原告らの働きかけに応じることは考えられないとしても、本件未買収地の中に、本件事業者から提示される買収額、買収条件等の点で不満を持ち、より良い条件を示す第三者に売却することを考え、原告がより良い条件を示した場合にそれに応じたり、好条件を示して現在の地権者から本件未買収地の一部を購入した第三者が原告の活動に理解を示し、トラスト等に協力する可能性も否定できない。また、本件未買収地の地権者が死亡して相続が生じた場合、相続人の中に原告の活動に理解を示す者が含まれる可能性も否定できない。したがって、本件未買収地の地権者らが原告によるトラスト等の働きかけに応じる余地は依然残されているものといわざるを得ず、原告の主張は採用することができない。
そして、前記認定のとおり、本件開発計画予定地の現況は、全体の四分の三近くが山林で占められ、それ以外の部分も原野が多く、出林と原野とで九割近くを占めており、現地の特定地点と現地に係る各種図面との対応関係を調査し把握することは必ずしも容易ではなく、その対応関係を正確に把握するためには、より詳細、精密な図面が必要になることが認められる。本件図面のうち、本件平面図には、本件ゴルフ場のコースや諸施設の形状、配置が記載されており、本件図面は、既に公表、公開済みの縮尺一万二五〇〇分の一の開発計画概要図及び等高線が二メートル間隔で表示されている縮尺六〇〇〇分の一のゴルフ場ゾーン土地利用図に比べ、等高線は一メートル間隔で表示されているとともに、それ自体縮尺が二五〇〇分の一と大きい上、一〇〇〇分の一の縮尺で作成した原図を元に作成されたものであって、より詳細、精密なものであることが認められる。また、本件対照図にも、廃止・新設される里道・水路のほか本件ゴルフ場のコースや諸施設の形状、配置が記載されている。そして、本件図面は、本件事業者により、航空写真の撮影や現地調査などを行い、約一年の期間をかけ、本件開発計画に必要な他の書面の作成及びコースの設計等と併せて数億円もの費用をかけて作成されたものであり、同様の図面を他の者が容易に作成できるものではないことが認められる。したがって、既に公開、公表済みの開発計画概要図やゴルフ場ゾーン土地利用図あるいは原告において独自に作成した図面を利用した場合に比べて、本件図面を利用した場合の方が本件開発計画予定地内の場所の特定がより容易になり、本件開発計画の進行を阻止しようとする者が本件図面を利用すれば、コース、諸施設の予定地や里道・水路に隣接する土地等、本件開発計画予定地内の重要なポイントとなる箇所を特定し、そこを取得したり、賃措するなどして、より効果的かつ容易に本件開発計画阻止の意図を実現できるものと認められる。
したがって、本件図面を原告らに開示すれば、原告らは本件図面を利用することによって、より効果的かつ容易にトラスト等を実現する可能性があるのであり、原告やその会員らが本件未買収地の地権者らにトラスト等の働きかけを行い、地権者らがその働きかけに応じる可能性が、高いとまではいえないとしても、依然として残されている本件においては、そのようなトラスト等が実現した場合に本件事業者が被る損害の大きさも併せ考慮した場合、「本件図面を開示することにより」、本件事業者の「事業運営上の地位その他正当な利益を害する」と認められ、本件図面は、条例九条三号本文に該当する。
3 なお、原告は、被告が本件訴訟に至って初めて原告のトラスト等を本件図面の非開示の理由としてあげたとして、かかる主張は非開示決定には通知書にその理由を付記することとしている条例七条四項の趣旨に鑑み許されない旨主張する。しかしながら、本件各処分の際、各公文書一部開示決定通知書に付記された理由は、第三の二に記載のとおりであって抽象的なものにすぎず、トラスト等の主張は各公文書一部開示決定通知書に付記された理由を具体化したものにすぎず、条例九条各号に掲げられた非開示の理由のうちの特定の号から別の号に変更するようなものではない。したがって、非開示の理由の記載の不備自体を問題とし、それが条例に反し違法であるとして本件各処分の取消しを求める場合にそのような主張が認められるか否かは格別、そのような主張もない本件訴訟においては、被告の防御権保障の観点からは、被告が各公文書一部開示決定通知書に付記された理由を訴訟における防御のために具体化し、被告がトラスト等を非開示の理由として主張することが許されなくなるとまでは解されない。
二 条例九条三号ただし書各号の該当性
1 条例九条三号ただし書イについて
今日、一般にゴルフ場が大量の農薬を使用し、その結果周辺の住民らに対し健康上の影響を与える可能性のあること等が指摘されている上、本件開発計画予定地の近くには学校があり、一七六〇戸、計画人口五五二〇人の住宅が建設される予定であること、本件開発計画予定地のすぐ下を流れる真崎川がふるさとの川としてその中で子どもたちが遊べるように改修される計画であること、本件開発計画予定地から二〇〇メートル以内のところに大量の地下水を使用している工場があることなどの事情からすれば、本件図面は、本件開発計画予定地周辺の住民にとって「事業活動によって生じ、又は生ずるおそれがある危害から人の生命、身体又は健康を保護するため」の一つの有用な情報であると一応いい得る。しかしながら、条例九条三号ただし書イは「事業活動によって生じ、又は生ずるおそれがある危害から人の生命、身体又は健康を保護するために」有用な情報すべての開示を義務づけているのではなく、「開示することが必要であると認められる情報」に限り開示を義務づけるものである。そこで本件を見るに、前述のように既に本件図面に類似する開発計画概要図及びゴルフ場ゾーン土地利用図が公表、公開されているところ、本件開発計画予定地周辺の住民に対する農薬の影響等原告主張の点を検討するために、これらの図面を利用するほかに、前記一の2で認定した本件事業者の受ける不利益を犠牲にしてまで、これ以上に精密な本件図面をも必要とする事情は窺われない。したがって、本件図面は「開示することが必要であると認められる情報」の要件を満たさず、条例九条三号ただし書イに該当しない。
2 条例九条三号ただし書ロについて
現時点において、右1で検討した点を除き本件開発計画に伴う「違法若しくは不当な事業活動によって生じ、又は生ずるおそれがある支障」は特に認められず、本件図面は条例九条三号ただし書ロに該当しない。
これに対し、原告は、本件開発計画によって、本件ゴルフ場で個人の土地である本件飛び地1を取り囲み、そこに至る里道を廃止することは、原告らの財産権、人格権を侵害するものであり、廃止する里道に代えて新たに別の通路を取り付けるとしても、それは金網フェンスの中を通行させるという屈辱を強い、自然と親しむ機会を遠ざけるものであって、社会通念上著しく妥当性を欠き、条例九条三号ただし書ロに該当する旨主張する。
この点、本件開発計画により、本件飛び地1は、本件ゴルフ場に取り囲まれる状態になるが、そのこと自体をもって、本件飛び地1の地権者の財産権の侵害と見ることができないことはもちろん、本件飛び地1に至る里道を廃止することも、本件事業者は、現在の里道に代えてより幅が広く自動車の通行も可能な通路を取り付ける計画をしていることをも考慮すると、地権者の財産権、人格権を侵害するものとは認められない。また、代わりに取り付けられる予定の通路の片側には高さ約一・八メートルの金網フェンスが約七〇〇メートルにわたって設けられるとしても、それは危険防止のためにはやむを得ないものであることをも考慮すると、一般論として一定の場合に人格権の保障及びその侵害が問題となる余地があるとしても、そして、現存の里道を通って自然観察等を行ってきた原告の会員らが、金網フェンスの設置によって自然と親しむ機会をその限度で失うことや、地権者の一人が付近に自然と共生する福祉施設を作る計画をしており、金網フェンスの設置により、自然との共生の理念がその限度で損なわれることがあったとしても、金網フェンスの設置が、本件飛び地1の地権者や原告の会員らの人格権あるいは財産権を侵害するものとまでは認めることができないし、社会通念上著しく妥当性を欠くものともいえない。したがって、他に「違法または不当な事業活動」が認められない本件においては、本件図面が条例九条三号ただし書ロに該当するものとは認められない。
3 条例九条三号ただし書ハについて
本件開発計画予定地に隣接して一七六〇戸、計画人口五五二〇人の住宅が建設される予定であることや、近くに学校があること、本件開発計画予定地のすぐ下を流れる真崎川がふるさとの川としてその中で子どもたちが中で遊べるように改修される計画であること、本件開発計画予定地から二〇〇メートル以内のところに大量の地下水を使用する工場があることなどの事実は1において条例九条三号ただし書イの該当性判断のところで考慮しており、その他に特に本件図面の開示が公益上必要であるとする事情は本件において何ら主張、立証されていない。したがって、本件図面は条例九条三号ただし書ハに該当するともいえない。
三 結論
以上により、本件図面は条例九条三号本文に該当し、かつ、同号ただし書各号のいずれにも該当しないから、条例九条五号の該当性について検討するまでもなく、開示をしないことができる情報にあたり、本件図面を非開示とした本件各処分に違法はない。
よって、原告の請求はいずれも理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の点につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 有満俊昭 裁判官 西田隆裕 村瀬賢裕)
別紙1、2〔略〕